サーフィンのワークアウトに最適な「ピラティス」。

サーフィンのワークアウトに最適な「ピラティス」。

冷え性改善、骨盤矯正などを謳うジムが多いからか、「ピラティス=女性のためのエクササイズなのでは?」と思う方は少なくないだろう。しかし、それはピラティスの表面上な部分しか知らないから。ここ数年、ピラティスはプロアスリートたちのワークアウトとしても注目され、サーフシーンでもコンディショニング調整のツールとして親しまれている。そこで今回はピラティスインストラクターとして活躍するプロサーファー、水野 亜彩子さんに“サーフィンにおけるピラティスの有効性”を聞いてみた。

ピラティスって何? ヨガとどう違うの?
そもそもピラティスとは何なのか。ここで改めて簡単に説明しておくと、ピラティスは約100年前、戦争で負傷した兵士たちの身体機能回復や精神の安定などを目的とした、リハビリ療法の一つとして発案されたもの。ヨガと混同されがちだが、ヨガは心身の統ーにフォーカスし、一方でピラテイスは身体のコアな部分を鍛えながら柔軟性や姿勢改善に重点を置いたエクササイズである。そのためヨガのように動きを止めて呼吸をするというものはなく、呼吸に合わせて動くものが多い。

「じつは私も、ピラティスを始める前までは『ヨガの筋トレ版かな?』程度に考えていたんですけど、ピラティスは体幹をターゲットにしたエクササイズになるので、正しい姿勢を保つために必要な筋肉を鍛えられ、逆に言えば身体の正しい動かし方を頭の中で理解できるようになります。例えば、デスクワークなどでパソコンと向き合う姿勢が続いてしまうと、頭の中では良くないなと分かっても、人はどうしても自分が過ごしやすい、使い慣れた筋肉を使って生活します。そうすると、筋肉や関節への負担が増え、さらに肩こりや腰痛、関節痛などを引き起こしやすくなります。ピラティスにより姿勢を改善できれば、そのような“悪い姿勢からくる不調”は、きっと解消されるはずです(水野さん)」

©️KENYU(SURFIN’LIFE 2023年9月号「テイクオフ完全マスター」より引用)

「これはサーフィンに置き換えても同じことが言えます。実際に私も、ピラティスを始める前まで感覚でサーフィンをやっていましたが、『このとき、どこの筋肉を使えば良いのか』というのを理解できるようになった今、サーフィンで技をかけたときの成功率が上がり、オフザリップをするときの足の引き付け時の腹部の感覚も、すごく変わった気がします。地味な動きが多いピラティスですが、裏を返すと、老若男女、気軽にできるのがいいところ。今回はサーファーの皆様に向け、サーフィン前後に最適なピラティスをレクチャーしますので、ぜひ取り入れてみてください!(水野さん)」

[ピラティスがもたらす効果]

  • (1)怪我をしにくい体を手に入れられる
  • (2)サーフィンのパフォーマンス向上
  • (3)海上がり後の疲労回復に一役買う

    筋肉の深層部である体幹、インナーマッスルを中心に身体の各部を鍛えられ、柔軟性が向上するピラティス。筋肉がトーンアップすれば力強いサーフィンが可能になり、柔軟性が高まれば怪我の防止に。海上がり後にもピラティスを行えば、疲労回復にもつながる。


正しい方法で、正しいピラティスを。

動作の正確性、呼吸の連動性が 重要となるピラティス。意識するとしないで、得られる効果は大きく異なる。水野さんも、そのピラティスの奥深さに惹かれ、インストラクターを目指したほど。
「私がピラティスを始めたきっかけは、知人がピラティスのインストラクターを取得する際に『練習に付き合ってくれない?』と誘ってくれたから。指導練習として私が生徒役となり、そのときがピラティス初経験だったのですが、今まで味わったことのないような動きを求められ、その衝撃は今も忘れません。当時、現役選手だった私は、コンディションを整えるためにあらゆるトレーニングを受けていましたが、ほかでは類を見ないほど、ピラティスは正確な動きを求められます。身体のコアな筋肉を使うので、最初は『これで合っているのかな?』と考えながら、とても頭を使いましたね。どの筋肉を使うのか、どのような姿勢で行うのか、どんなことに注意すれば良いのか。サーフィンと同じく、アプローチを間違えると良い結果は生まれません。ピラティス中の正しい動作はエクササイズの内容によって異なるので、実践編で詳しくレクチャーしますが、動作と同様に重要になるのが“呼吸を止めない”ことです(水野さん)」

■ラテラル呼吸

ラテラル呼吸とは、ピラティスにおける基本の呼吸法。肋骨を広げ、肺を大きく膨らませるイメージで鼻から息を吸う。肋骨の上に添えた両手が大きく開くまでたっぷりと空気を取り込む。吸い切ったら、鼻からゆっくり息を吐く。

ピラティスは基本的に呼吸を止めることがなく、軽度の負荷を長時間続ける有酸素運動。一般的に知られる「腹式呼吸」とは異なり、ピラティスの基本呼吸は『ラテラル呼吸』を用いる。吸う息に重点を置き、肋骨を広げて胸に空気を取り入れる、いわば胸式呼吸である。
「初めての方は、その『ラテラル呼吸』ばかりに意識が向き、動作の正確性が疎かになってしまうので、まずは“呼吸を続ける”ことを意識し、動きに慣れるまで『腹式呼吸』でやってみてもいいかもしれません。呼吸を止めて行うのが一番好ましくないので、エクササイズの動作に慣れてきたら、『ラテラル呼吸』にステップアップしてみてください。そうすることで、得られる効果は格段に大きくなるはずです(水野さん)」

■ニュートラルポジション

正しいニュートラルポジションの確認方法:仰向けの状態で膝を曲げる。骨盤の出っ張り(両側2点)と恥骨(中央1点)の3点を結ぶ三角形が、床に対して平行であれば問題なし。このとき、腰と床の間に手のひら一つ分の隙間があるのが正常。逆に、手のひら一枚以上の隙間がある場合は反り腰の可能性が高い。

「次に覚えて欲しいのが、『ニュートラルポジション』。これはピラティスにおける基本姿勢の一つです。簡単に言うと骨盤が安定する正しいポジションで、このニュートラルポジションをマスターすることで、姿勢が良くなり、身体も疲れにくくなります。肩こりや腰痛の予防にもつながりますし、ピラティス中のエクササイズ効果も高まります。効率よく鍛えるために、このニュートラルポジションも覚えておきましょう(水野さん)」
回数や強度で厳しく追い込むのではなく、「正確性」を基本原則とするピラティス。より効果的にピラティスを始めるためにも、正しい呼吸と正しい姿勢は意識して行いたいところ。さて、今回の座学はここまで! VOL.2では、「ウォームアップに効果的なコンディショニングピラティス」をレクチャーいたします。お見逃しなく!

 

[PROFILE] プロサーファー/ピラティスインストラクター
水野 亜彩子さん
みずの・あさこ●1993年、東京都生まれ。2009年、当時の女子プロサーファー最年少記録である15歳でJPSAプロ資格を取得し、同年ルーキー・オブ・ザ・イヤーを獲得。2011年に高校生でJPSA優勝、その後年間ツアーランキング2位に。日本代表としても世界戦にも4度出場している。24歳で現役を退き、現在はプロサーフィンツアーの解説者や、ピラティスインストラクターとして活躍中。

写真=熊野淳司(STUDIO467) 文=GGGC
[2024年9月号掲載の記事を再構成]