ウェットスーツ業界で初の勳章受賞


日本ウェットスーツ工業会(JWMA)は、日本国内のウェットスーツメーカー(企業)で組織された業界団体。 日本国内でウェットスーツの製造を行っている企業及びその製造に必要な材料・資材等を供給している企業 やウェットスーツ関連の団体だ。その JWMA にも加盟し、老舗ウェットスーツメーカーでもある株式会社モビーディック。特殊潜水スーツやダイビングスーツ、そしてサーフィンのウェットスーツメーカーとして確固たる地位を築いている。我々サーファーには O’NEILL(オニール)のウェットスーツでお馴染みだ。そんな同社の会長、保田守氏が令和4年秋の叙勲※で「旭日単光章」を受章した(受賞当時は代表取締役)。これは業界で初の快挙だ。そこでモビーディックの本社がある宮城県石巻市にて保田氏にインタビューを敢行した。

※叙勲は個人の功績や業績を国家が表彰し、勲章が授与されること。選考は基本的には各省庁の大臣などから候補者を内閣総理大臣に推薦しいくつかの審査を得て最終的な決定が閣議で下される。

サーフィンライフ、以後 SL「業界初となる勲章を 受賞された時のお気持ちをお聞かせください」
保田 守氏以後、Y「大変名誉なことでとても嬉しく思いました。最初に経済産業省の方から、推薦して良いかどうかの確認が入り突然の話しでビックリしたのが率直なところでしたね 。ウェットスーツ業界初となる受賞については皆さんが祝ってくだ さり実感が湧きました。繰り返しになってしまいますが、名誉なことだと思います」

SL「ご自身では受賞に至ったのはどのような事が評価されてだと思われますか?」
Y「私自身、それに対して何とも言えない部分があります。ただ地方の経済振興に対して多少なりとも貢献できていたら良いなと思っております。また、ウェットスーツ業界、マリンスポーツ業界に参画し個人としても会社としても積み重ねてきた事が評価されてのことであれば嬉しいです。そのうえでウェットスーツ業界やJWMAの認知が上がればとても良いことだと思います」

SL「宮城県石巻の地で創業されたキッカケを教えてください」
Y「もともと、父が石巻で東北ダイビングセンターという会社を創業しておりまして、父が倒れてしまい私が後を継ぎました。父の影響でマリンスポーツが好きでしたし、学生の頃に体験したマッコウクジラとの出 会いで海の魅力に惹かれ、その魅力を1 人でも多くの人に伝えたいという思いがあったので継ごうと決意しました」

SL「最初はどんなウェットスーツを作られていたの ですか ?」
Y「最初は東北地方の素潜り漁師さん向けの1着から始まり、それがスクーバダイビ ン グ用、サーフィン 用などウォータースポーツ用、水上バイクやヨットなど マリーナスポーツ用など販路が拡大していきました。また、職業ダイバー用、海上保安庁や自衛隊、消防、警察などの特殊な業務用のスーツも作って参りました。特殊なものでいえば大深海でも加温を可能にする“ホットウォータースーツ”、汚染水域の潜水を可能にする“耐薬品ドライスーツ”、透湿防水素材による“ヘリコプター・レスキュースーツ”などがあります。どれもチャレンジとして作ってきました」

SL「震災から12 年が経ちました。震災の影響、 そこからの復興はどういった思いがありましたか ?」
Y「震災では自宅や隣にあった会社の事務所も流され大きな被害を受けました。また、社員の人的な被害はなかったですが、家を流された人 間も多く本社を避難所に寝泊まりを30 名ほどがしていたと記憶しています。3月の後半まではそういった状態でした。避難所生活をしているなか、そこから徐々に仮設住宅などが整備されていき、働く場も必要なことからスーツの端材でアクセサリーを内職で作ってもらったりして、それを販売することによりわずかかもしれませんが、雇用を生み出していきました 。たくさんの協力があって今日に至る形です。皆さんには助けてもらったことも多く感謝しています」

S L「震災の際は御社のウェットスーツが人命救助や捜索に利用されました。もちろんたくさんの方が亡くなられている現状、本意ではないかと思いますが何か感じられることはありましたか?」
Y「当時、捜索に海上保安庁の方、警察、消防の方、自衛隊の方など水中を捜索しているなかで、弊社のウェットスーツを多くの方に着用いただいた、役に立ったということは作っている側として誇りに感じています」

SL「今後の御社のビジョンや製品に対するこだわりをお教えください」
Y「“世界中の海を楽しく安全にする”という会社理念があり、そこはこだわっていきたいと考えています。また、従業員の幸福 度をあげることも重要だと考えます。また会社である以上、利益をあげ株主への報酬還元はもちろん、社会のニーズに貢献するために高機能でデザイン性にも優れたお客様に満足してもらえる1着を届けることにこだわっていきたいと思います」

プロフィール
やすだ・まもる●1950年8月9日生まれ。宮城県石巻市出身・在住。ウェットスーツやドライスーツ特殊潜水スーツなどを作る株式会社モビーディック会長。1973 年に東北ダイビングセンター(現、株式会社モビーディック)に入社して以来、クオリテ ィの高いアイテムを開発。東日本大震災では冷たい海での救助、捜索に同社のドライスーツが数多く使われる。令和4年の秋に叙勲で「旭日単光章」を受賞した。

 

写真/熊野淳司 文/サーフィンライフ(鈴木康高) SPECIAL THANKS JWMA