サーフアンドシーが目指す、海洋プラスチック・ゼロ

Photo/Junji Kumano 左、代表理事の小池氏 右、ホームビーチのビーチクリーンに参加したオリンピック日本代表 松田詩野

海を身近に感じ、文字通りサーフィンライフを送る私たちにとっても無視できないトピック“海洋ゴミ問題” 。サーフィンに行く際に砂浜で足元を見ると残念ながら必ずごみが目に入ってくる。 NPO法人〈サーフアンドシー〉は、全国でビーチクリーン等を行っている団体。発足前からSDGs意識の高い多くのブランド&企業と組んでビーチクリーンをしてきた。今回、湘南・ 茅ヶ崎で開かれたビーチクリーンイベントの際に活動の経緯や背景について代表理事の小池秀美さんに話を聞いた。

Photo/Junji Kumano


きっかけは、ビーチに溢れるゴミ

理事の須田那月(左)と大原沙莉(右)

「パッと見ると綺麗なビーチだと思いますよね。でもよく見るとほら、細かいプラスチックがこんなに」。
3月上旬〈サーフアンドシー〉が主催するビーチクリーンイベントに参加させてもらった際のことだ。波打ち際ですくった砂を私たちに見せ小池さんはそう言った。そのなかには、カラフルな赤、青、黄、緑、橙色をした破片が砂つぶに混じっている。
「捨てられたプラスチックが波に揉まれたり紫外線で細かくなったりして小さなカケラになります。これが再び海へ流れてしまうと、回収は困難です。だからそうなる前に拾わなくちゃね」。
〈サーフアンドシー〉は、もともとホワイトバッファローが主催するサーフィン大会前後に国内外の多くの選手たちと地元への感謝を込めて行ってきたビーチクリーンが原点。発足のきっかけは、コロナ感染拡大が日本でも騒がれていた頃。国内外の遠征に行き難い時期にプロサーファーの須田那月とプロボディボーダーの大原沙莉のふたりがシェアしてくれた海の話だった。
「那月ちゃんは種子島、沙莉ちゃんは千葉・一宮がホームスポット。ふたりとも、海岸に流れ着いたり捨てられたりするプラゴミを見て心を痛めていました。それを聞いて、私たちに何かもっとできることはないかな」というところからプロジェクトは発足した。それ以来共に、海を少しでも綺麗にする活動に取り組んでいる。
現在、〈サーフアンドシー〉の活動は、ビーチクリーンやアップサイクルなどの直接的なアクションをはじめ、講演会やセミナー、ワークショップの開催など多岐にわたっている。
「座学だけでなく、実際に手を動かしてビーチクリーンやアップサイクルを体験することで、海の問題を身近に感じてもらいやすくなります」。
同じ理由から、一昨年にはアディダスの世界的環境キャンペーン“Run for the Ocean”イベントで、原宿に集まったランナーたちとワークショップを実施。海ゴミと街ゴミについて理解と親睦を深めた。また、昨年好評だった小学生対象の東京・港区立エコプラザで実施した『夏休みワークショップ』を、今年は大人枠にも広げて実施する予定だ。

見えない海の中で何が起きている?

ワークショップと併せて行うレクチャーでは、“海に漂うプラスチック”の話をする。今話題にのぼることが多い2050年問題とはいえ、海のなかで起こっていることは目に見えず、なかなか想像がしにくい。だから、なるべく実感が湧くような説明をする。
「『海には毎分、15トントラック一杯分のプラスチックゴミが流出しています。このままだと2050年には、魚の量をプラスチックが上回ります』と言うと、みんなは『えーっ』と仰天します。『細かくなったマイクロプラスチックを魚が食べると、いずれは食卓へ上り、私たちの体のなかへ……。プラスチックが目に見えないくらい小さくなると簡単に血管内にも入り込んでしまいます』と。話がそこまで進むと、みんな身を乗り出して話を聞いてくれます。イベント後には子どもたちだけでなく、後ろで見ていたお母さん達も積極的に質問を投げかけてくださったことも嬉しいことでした」。

目指すのは、“善意の伝染”

発足後、地道な活動を続けたことで〈サーフアンドシー〉の認知は少しずつ広まった。イベントを中心に後援してくれるスポンサーも徐々に増えた。とはいえ、使える予算と時間は限られている。そこで小池さんが目指すのは、“善意の伝染”だ。「地球にいいことをしましょう、と国や自治体がいくら言ったところで人はなかなか変わりません。でも身近な人が、楽しそうにアップサイクルに取り組んでいたら、『何をしているんだろう?』と気になると思うんです。今日のビーチクリーンイベントにも、地元の中学生がたくさん参加してくれました。彼らが家に帰って、『今日こんなことがあったよ。五輪代表のプロサーファーと一緒にごみ拾いをして……』という話をすれば、“善意の伝染”のキッカケに」。
今回のビーチクリーンでは大きなゴミは少なかったけれど、小さなプラスチックのカケラの多さに驚いた参加者が多かった。〈サーフアンドシー〉の活動の根底に流れるのは、住む場所にかかわらず、「みんなに“海の今”を知ってほしい」という想い。
「世相的にSDGsを考えることが当たり前になった一方で、『問題意識は持っているけれど、実際に行動に移せていない』という人もいらっしゃると思います。私たちはそんな方々と同じ視点に立って、一緒に行動を起こせればと考えています」。

earthday Tokyoのワークショップ様子

小池秀美●こいけひでみ/ NPO法人〈サーフアンドシー〉代表理事。2016年からサーフィン世界大会を開催してきた「ホワイトバッファロー」の代表として、大原洋人・松田詩野らプロサーファーのマネジメントも手がける。その運営母体である(株)ケイズプロジェクトの共同創設者&取締役。

Surf and Sea

https://surfandsea.org

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写真=熊野淳司/Surf and Sea 文=佐藤稜馬