インタビュー 五十嵐カノア
その年の世界チャンピオンを決するCT(チャンピオンシップツアー)において、同ツアー3年目となる昨シーズン、五十嵐カノアはトップ10入りを果たした。世界王者と東京五輪での金メダル獲得を視野に入れ、着実に成長を遂げているカノア。新シーズン幕開けを前に目にしている光景とは?
世界のトップ5を目指し、
今年は生活のすべてを捧げたい
2015年12月。念願のCTにクオリファイを決めたばかりのカノアは、翌年から戦う相手についてこう話していた。「CTサーファーの違いは自信だと思う。波に乗っているときはもちろん、パドリングをしていても、歩いていてもオーラを感じる。まだその訳はわからないけれど……」
当時18歳。あれから3年間、エリートツアーをがむしゃらに戦い抜いてきたカノアは、気づけばコンテストMCに〝リトルキッド〞と呼ばれることはなくなり、世界王者をも打ち負かすトッププロサーファーに成長していた。そうしてようやくひと息つけたという今、これまでの軌跡をこう振り返る。「ルーキーイヤーは勉強になることがありすぎて、ものすごい量の情報が自分に入ってきて頭がグチャグチャになった。2年目は学んだことを少しでも生かそうと思ったけれども、オフシーズンが短かったので消化しきれずにそのままツアーが続いていってしまった感じ。そのなかでも大会で結果を出そうともがいて、やっぱり頭の中がクリアじゃなかった。3年目の後半から、やっとすべてがまとまってきたと実感できた」
カノアの強みは明晰な頭脳。実際に高校は2年飛び級の15歳で卒業している。サーフィンにおいても数々の最年少記録を樹立するなど、対応能力、学習能力の高さはジュニアの頃から群を抜いていた。そして現在21歳。経験と身体が追いついてきたカノアは、ついに自身が思い描いてきたイメージを形にできる力を得たといえる。
カノアの今年の目標はCTトップ5。その高みを目指すために、カノアは大きな決断をした。これまでは翌年のCT残留に保険をかけるためにQS(クオリファイシリーズ。CTに入るための下部リーグ)を回っていたのだが、今シーズンはCT1本に戦いを絞るというのだ。
「CTトップ5のサーファーはQSを回っていない。今年は多くの大会に出て結果を得ていくのではなく、厳選した大会でしっかり結果を出す。具体的には、トップ5に入るために必要なことでもあるんだけれど、CT11戦のうち1戦は優勝をする。CTトップ5と初優勝、このふたつが今年の目標。QSは慣れているし勝てる自信はあるけれど、プロフェッショナルとして上を目指し世界のトップにたどり着くには、もっとシンプルに勝負しないといけないことがわかった。本物のCTサーファーでありたいからね」
今シーズンはQSを回っていた時間を、新しいサーフボードを試したり、波の良い場所に行って練習することに費やすという。大きな賭けともいえる英断をくだしたカノアは、今年からCTの始まりが3月から4月になったこともあり、長くなったオフを利用してルーキーイヤーからの学びを振り返りつつ、徹底的にサーフィンを調整している。
「エアがさらに上手くなってきたし、ターンも良くなってきた。フローも良い。今の僕のサーフィンの良い部分をすべて磨き上げるように練習している。CTのトップサーファーは、技が上手いのはもちろんだけれど、大きな技すべてを美しくつなげられるところが違う。エアをして大きなカービングをしてから深いチューブに入るというようなコンビネーションを、いかに途切れなくメイクするかが重要なんだ」
世界最高峰の舞台で3年戦い、最先端のサーフィンの真髄を理解したカノアの顔は凛々しい。最低限しか出場しないと宣言したQSだが、それでもホームビーチのハンティントンで開催されるQS最高グレードのUSオープンには「地元のお祭りみたいなものだから一生出る(笑)」と笑顔で言い、またCT開幕直前の3月末には、やはりハンティントンでのQSイベントに出場した。
本番への調整を兼ね参戦したと思える同大会では圧巻のライディングを披露。9.17ポイントを出すなど上々の仕上がりを見せた。そして目を見張ったのはライブ中継に映る堂々とした姿。それは3年前にカノアが話していた自信に満ち溢れたCTサーファーそのものであり、世界の頂に向かって着実にステップを踏んでいる証でもあった。
いがらしかのあ●1997年、カリフォルニア生まれ。両親の影響で3 歳でサーフィンを始める。全米タイトルに輝くなどジュニア時代の活躍を経て、2015 年からCTに参戦。2018 年より登録の国籍をアメリカから日本に変更し、同年開催の国際大会「ISAワールドサーフィンゲームス」には日本代表メンバーとして出場、個人で銀メダルを獲得。東京オリンピック日本代表の最有力候補選手として注目を集める。木下グループ所属。
[サーフィンライフ2019年5月号掲載記事を再構成]
写真/横山 泰介 取材・文/高橋 淳