とてもバランス感覚に優れた社会人サーファーとは、きっと本作の著者のことをいうのだろう。カリフォルニアで生まれてサーフィンを始め、同地とハワイで腕を磨く。地元で満足できなくなると、今度は求めて世界中へ旅に出る。一方、幼少期から本を読み、文章を書き、サーフィン以外にも興味を示してきた。たとえば南アフリカでのアパルトヘイトなど。自叙伝の本作にはサーファーでジャーナリストである著者の半生が記される。サーファーは波への情熱と実生活との狭間で揺れ動くものだが、著者は両者を高次元で追求。世界の名スポットで波に乗り、高級誌ザ・ニューヨーカーのスタッフライターとして腕をふるうまでになった。日本なら、稲村ガ崎の台風スウェルを堪能できる、5大全国紙の敏腕記者や文藝春秋誌の編集者といったところか。そのようなバランスが取れるのは、やはりアメリカだからなのだろう。多彩な文化が成熟し、サーフィンも日常にあるから、本著のような作品が生まれるのである。
『バーバリアンデイズ』
ウィリアム・フィネガン 著
児島 修 訳
エイアンドエフ 2,800 円
父親の仕事の関係でカリフォルニアからハワイへ移り住んだ少年時代から物語は始まる。ハワイでの暮らしやアジアの旅路など、リアリティに富む緻密な描写は魅力。一読すればテイクオフできないビッグウェイブに乗った気分も味わえる。
写真/鈴木孝之(静物)