サーフィンライフ アーカイブ Vol.31 2003年9月号〜クイックシルバー・プロ新島、アンディ・アイアンズ インタビュー書き起こし

表紙は4年ぶりに日本で開催されたWCT(元WSL)「クイックシルバー・プロ 新島」より本戦に出場したMARこと、大野修聖。最も世界に近い日本人として多くの期待を背負いながらの出場。ローカルトライアルやスポンサーワイルドカードなどもあり、MARの他にも大野仙雅、林健太、浦山哲也、小川直久、河野正和、原田正規、田嶋鉄兵などの複数の日本人プロが本戦に出場。夜行船で新島ま取材に行きました。(帰りは高速船)
結果からいうと優勝したのはアンディ・アイアンズ(HAW)、まさにアンディ黄金時代のど真ん中。スイッチが入った時のアンディの強さは圧倒的でしたね。表彰台でのインタビューでパーコの「アンディには勝てる気がしない」が印象に残っています。
ROUND1でタジ・バロウ(AUS)、ネコ・パダラッツ(BRA)を下し1位でROUND3にUPしたMAR。日本人ではMARのみが進出。ROUND 3での相手はアンディ。ヒートはアンディが終始リード、MARが逆転に必要なスコアは7.76pt。もうダメか?と誰もが思ったヒート残り1分、セットの波にテイクオフしたMARは波の全てを使いきりハードにチャージ。ジャッジのコールを待ちます。出たポントは7.75pt…。わずか0,01及ばず。同スコアながらもシングルグルハイエストでのポイントが低く、悔しすぎる敗退となりました。
編集部は試合がスタートする前、新島でアンディに直接インタビューする貴重な機会に恵まれたました。今回は特別に書き起こしでお届けします。コンペティターとしての強さ、繊細と大胆。実弟ブルース・アイアンズに対する思いなど。それまであまり自ら語ることになかったアンディのパーソナリティが垣間見れる内容となっています。

「王者(キング)の正体〜ANDY IRONS」

”昔は舞い上がって熱くなることも多かった、最近は大きく息を吸って、落ち着いてみたってこと”

サーフィンライフ(以下SL):今回の新島のコンテストではどんな成績を残そうと思っているのかな?
アンディ・アイアンズ(以下AI):まぁ、2〜3ヒートだけでも勝てれば最高だね。日本での大会はいつもツイてないんだ。これまでも2ヒート以上勝ち上がったことがないし。あとは波が良ければ最高だよね。ここ(新島)にくる前に千葉に行ってきたけど、あまりいい波じゃなかった。ヒートは昨日みたいにシークレットスポットでできればいいんだけど。あそこの波はいいよな?まあ、そういう条件が揃った中でクォーターファイナルまでいければいいかな。
SL:クォーター?なんだか驚きだね。君なら「Yeah、優勝してみせるぜ」ぐらい言ってくれるかなと思ったんだけど。
AI:いや、今のメンバーを見てくれよ、とんでもなく上手いサーファーがたくさんいるから・・・例えばタジ・バロウ、ミック・ファニング、コリー・ロペス、特に小波であんな連中についていくのは大変なことだよ。オレは77kgだし、タジは64kgとかそれくらいだろ?10キロ近い体重差っていうのは大きいものなんだ。もしオレがいい波に乗れたらチャンスはあるかもしれないけど、奴らがいい波に乗ったら本気でヤバいと思う。奴らのクイックさときたら・・・本当にシャープだからな。
SL:パドルアウトしていくとき、頭の中では何を考えてるの?
AI:パドルアウトしてるときは、完全に外の世界を遮断するんだ。考えているのは、波のブレイクはどんな感じか、どこで波待ちをすればいいか、1回のセットで波は何回割れるか、相手の選手はどんな技でくるか、それに対して自分はどの波に乗れば勝てるか、フィジカル面とメンタル面のバランスを最高に高めて勝つための作戦を貫くんだ。邪念は全くない状態だね。
SL:自分の性格ってどう思う?
AI:難しいな。一言でいうとムーディー(気分屋)だね。喜怒哀楽がわりと激しいかな。自分の性格についてはあまりよく判断できないから、他の人に聞いてくれよ。
SL:去年(2002年)チャンピオンになった時、成績に結構バラつきがあったよね。何度かは17位になったり、不本意な成績がいつくかあったと思えば優勝したり。精神面も変わったようだけど、何かきっかけでもあったのかな?
AI:もうすぐ25になるしね(笑)。精神的にちょっとは大人になったと思うよ。もう18歳じゃないんだから。それまで犯したミスからいろんな事を学んだんだ。どういう事をすれば、うまく行く、どうゆう事をすれば失敗するってことを考えたし。大切なのは、相手にミスをさせることだね。これまではヒート前に舞い上がってアツくなる事も多かった。だけど最近は大きく息を吸って、落ち着いてみたってこと。自分の場合はせめて頭以上の波に当たれば調子いいんだけど、やっぱりムラがあったんだ。自分にとって一番良くないのは、やっぱり波をハズすことかな。オレは体が大きい分、小さい波だといまだに不利に感じるね。だけど最近はコンディションのいい、悪いにそれほど左右されなくなったんだ。シークレットポイントはカリフォルニアのアッパートラッセルズを思わせるいい波だから好きなタイプだし、今回も頑張ろうと思っているよ。
SL:昔は自分より上手い選手のライディングを見てて「ヤバい、いいスコア出されてる」とか焦ったりしたときもあったの?
AI:そうすると結局は自分で自分を殺してしまうってことなんだ。今は相手のライディングが気になってもあまり見ないようにしてる。ヒートで対戦する相手のサーフィンはスゴいなって当然思ってはいるけどね。試合が始まったら友情関係はビーチに置き去りにして、コンペティターになりきった自分を沖に連れていく。そうしないと勝てないよ。
SL:ヒート中に相手選手と喧嘩したことは?
AI:一度、ホセゴー(フランス)の大会でミック・キャンベルと喧嘩になったことがある。波の取り合いになった時に、ちょっとしたことをオレが口走って、それにミックが応戦してきたんだ。今はとってもいい友達だし、お互いをリスペクトしてるけどね。オレたちはみんなコンペティターだから。やっぱり勝ちたいって気持ちが強いから喧嘩になることだってある。昔、ポッツ(マーティン・ポッター)とガーラック(ブラッド・ガーラック)が喧嘩したようにさ。だけどそういう瞬間以外はみんないい友達だよ。一緒に過ごす時間も長いから、実はみんな仲良くしようとそれなりに気を使ってるんだと思う。それがいい方向に向かっているけどね。

”トリックだけでなく、パワフルなレイバックもちんとやればカッコいいと思うんだ”

SL:そういえば今はみんな国籍問わず仲が良いよね。君もオージーのグループとつるんだりしてるけど、今はハワイアンはハワイアン、オージーはオージー同士でつるむ、みたいなことはないの?
AI:確かに昔はオージーとアメリカ人が仲悪かったり、対立したような感じがあって一緒につるむどころか口もきかなかったこともあったよね。だけど今はトラベルパートナーとしてオレなんかはパーコ(ジョエル・パーキンソン)とかタジ、ミックとかと仲いいんだ。愛国心はもちろん捨てないけど、それよりも仲良くツアーをエンジョイしてる。そのほうがずっとマシだから。
SL:アンディから見て、日本人サーファーで”上手い”って思うサーファーはいる?
AI:うん、いっぱいいるよ。日本人サーファーはここ数年でさらにレベルをアップしたんじゃない?昔は確かにロースコアな印象があって、実際点数も5点台とか、正直レベルの差を感じたね。だけど今は点数も互角だし、昨日見たクイックシルバーのライダー(林健太)、何年か前にケリー(ケリー・スレーター)に勝ったダイスケ(今村大介)、オオノブラザーズ(大野仙雅、修聖)、ナオ(小川直久)はノースでもクレイジーだし、ワキタ(脇田貴之)のパイプのチャージもヤバいし。とにかく日本人サーファーにはとても尊敬の念を持ってるよ。明日対戦するマー(大野修聖)もサーフィンは日本のトップレベルだし、決して気は抜けない。本気で対戦しないと簡単に負けてしまうだろうね。
SL:今回新島に持ち込んだアンディのボードは特別に日本用にチューンされたものなの?
AI:いや、まったく普通のボードって感じだよ。一般的なボードとなんら変わらない。エリック・アラカワのシェイプで、長さは6’2″、幅は18′ 1/2″、厚さが2′ 1/4″、ボトムはダブルコンケイブ、テールロッカーは若干きつめかな。あとは1本エポキシの6’1″、凄く軽量なボードでマッシーな波用なんだけど、ボードに関してはまぁいたって普通って感じ。あまりボトムのこともよく解らないし、オーダーする時も「前回のが良かったから同じサイズで」とかだね。大部分をシェイパーに任せているんだ。
SL:日本の波みたいに小さくて、しかもトロ厚い波で上手くサーフィンするコツって何?
AI:それは難しい質問だね。誰にとっても簡単なことではないよ。マッシーな時はなるべく軽くて、やや幅のあるボードがいいと思う。あとはできるだけ波のセクションを上手くつかってスピードを出すしかない。小波に関しては特にそのサーファーの才能によるところがとても大きいね。それと小波が上手いなと思えるサーファーの動きをビデオでチェックして、彼らが乗るように乗ってみる練習をするのもいいと思う。
SL:今はアンディだけのライディングスタイルがあると思うんだけど、昔はビデオとか見て誰かに影響されたりしたの?
AI:うん。よくポッツ、カレン(トム・カレン)、ドリアン(シェーン・ドリアン)、サニー(サニー・ガルシア)のビデオを見て真似したりもしたけど、特にアーチー(マット・アーチボールド)のファンだったから、彼のビデオはよく見てたね。彼らのようにエアー、カーヴィングとなんでもできるサーファーになりたいとは思ってる。でも自分の乗りやすいように乗ってきたっていうのが本当かな。
SL:なにか新しいトリックを考えたりもするの?
AI:いや、オレはエアーリバースとか違うタイプのグラブエアーとかも確かにやるけど、トリックだけでなくパワフルなレイバックもきちんとやればカッコいいと思うんだ。だからあまりクルクル回ることばっかりに夢中になるタイプではないね。

”35歳まではツアーに残ってみせる、スポンサーがいなくなっってもサーフィンは止めないさ”

SL:ところで、最近のブルースのサーフィンを兄貴としてどう見てるのかな?
AI:ヤツは最近さらに伸びてきてるね。モルジブでのWQSでもクォーターファイナルまで言ったし、マーガレットリバーでもいい成績を出しているんだ。WCTにクオリファイするのも時間の問題じゃないかな。今は昔みたいにパーティーアニマルでもないし、いいテンションで集中しているから楽しみだよ。
SL:今でもブルースにサーフィンを教えたりするの?
AI:オレとしてはいつでもアドバイスしてあげたいんだけど、ヤツは聞くタイプじゃないからな。オレが「こうしろ」って言うとわざと逆のことをしやがる。わかる?オレ達の関係はマロイブラザーズ(クリス、キース、ダンからなる兄弟で全員がプロサーファー)みたいじゃないんだ。まぁ、オレがどうこう言わなくてもヤツは一人で上手くなれると思うよ。
SL:昔は兄弟喧嘩もよくしたって聞いたけど?
AI:そうさ。デカい波でわざとドロップインして、ヤツがデカいスープをもろに喰らってボードをクラッシュしたり、そんないたずらはしょっちゅうやってた。2ヶ月ぐらい口もきかなかったり。でも今はそんなことは全然ないね。お互い助け合って上手くなるために協力しあってる。いい関係だよ。

”「アンディっていう上手いサーファーがいたよね」って語り継がれるようになりたいのさ”

SL:5年後、10年後の君はどうなってるのかな?
AI:5年後はまだコンペティターとしてやっていたいし、35歳まではせめてツアーに残ってみせる。10年後、20年後にはビラボンのために働いていられればいいね。スポンサーがいなくなってもサーフィンは止めないさ。貯えがきちんとあって、家ももちろんあって、欲しいものは全て手に入れたい。その中にはもちろんすぐに海に行ける環境みたいなものも含まれていないと。それが絶対条件かな。
SL:ケリーが成し遂げた記録を君も達成することができるかな?
AI:いや、無理だね。ケリーは史上最高のサーファーなんだぜ。あんな風になれるなんて思わない。確かにオレもそういうポジション(ワールドチャンピオン)にいられるってだけでストークだけど。ただ、オレもいつかはケリーと比べてどうだ、とかではなくて”アンディって上手いサーファーがいたよね”っていうように人に語り継がれるサーファーになりたいのさ。
SL:話は変わるけど、学校に通っていた頃はどんな生徒だったの?
AI:学校はあまり好きじゃなかった。家庭科は好きだったけどね。作ったものを食えるから 笑 。でもそれ以外は全然ダメ。走るのは速かったからサッカーは得意だったけど。やっぱりサーフィンだけは得意でいつもサーフィンのことばかり考えてた。6’2″とかそれくらいのショートボードでサーフィンを始めて1日目で立てたし。
SL:今の自分のように世界チャンピオンになれるなんて小さい頃から想像してた?
AI:始めた頃はプロツアーの存在があること自体知らなかったし、プロサーファーになろうなんて思いもしなかった。ただサーフィンが楽しくて仕方なかったね。そしてみんな就職し始めた頃、オレは仕事しないでサーフィンだけしていられたらいいなって思ってたら本当に上手くその通りになって、今はみんなが仕事に出かける時オレはサーフィンしに行くんだ。人生は不思議だね。
SL:昔「アーリーウープ」っていうビデオにタジとかCJ(CJホブグッド)とかと一緒に出てたよね。その頃はみんなライバルで同じ段階にいたけど、今はそのグループから抜きん出た感があるんじゃない?
AI:あの頃は若くて何も心配することが無くて楽しいことばかりって感じだった。大会に勝てばお金が貰えて、見たこともないような場所に仲間と行けて、全てが勢いづいてきた頃だったんだ。
SL:最後にサーフィンライフの読者に上手くなるためのアドバイスをもらえるかな?
AI:オフコース!とにかくガンガン海にいくこと。とにかくたくさんサーフィンをするんだ。あとはいいボードを手に入れることが大切だと思うよ。いいボードは必ず君のレベルを引き上げてくれるからね。高いかもしれないけど、なるべくニューボードを試すことだ。シェイパーとなるべくコミュニケーションを取るようにして、いいボードを手に入れるようにしよう。そしてサーフィンを楽しむこと。最初からいきなり上手くなろうとするよりもエンジョイすることが大切だと思うよ。楽しければもっとサーフィンをしたくなるだろ。
*このインタビューはサーフィンライフ2003年9月号に掲載されたものを一部加筆、修正したものです。スポンサー表記などは当時のままとなっています。

アンディ・アイアンズ:1978年7月24日生まれ、ハワイ・カウアイ島出身。2010年11月2日没。2002〜2004年の3年連続ワールドチャンピオンの他にもハワイの伝統的コンテストトリプルクラウンで4度の総合優勝を果たすなど一時代を築いた歴史に残るプロサーファー。サーフィンスキルのみならず、その強烈な個性で時代のアイコンとなった。一時ワールドツアーを離れたがその後復帰。まだまだ活躍が期待される中、遠征から帰路に着く途中に滞在したホテルで不慮の死を遂げる。死因には諸説あるが、真相はわかっていない。昨年、その死に迫ったドキュメンタリー「KISSED BY GOD」が公開された。

A.I FOREVER……

やっぱり重かった アンディ・アイアンズ「KISSED BY GOD」視聴レビュー*ネタバレ無し

2018.09.13