名作『リトマス』を世に送り出したアンドリュー・キッドマンの新作が完成。カリフォルニアで開催されたプレミアに潜入!

10月14日、カリフォルニアのマリブにあるサーフショップ「ボードライダーズ」で、アンドリュー・キッドマンとエリス・エリクソンが手掛けた映像作品『オン・ジ・エッジ・オブ・ア・ドリーム(ON THE EDGE OF A DREAM)』のプレミア上映会が行われた。

アンドリュー・キッドマンは、1997年に『リトマス』、2004年に『グラスラブ』というサーフムービーの不朽の名作を生み出した張本人。その彼が、豪州バイロンベイ出身ながらバリにも拠点を持ち、サーフィンとサーフボードのシェイピングに明け暮れる注目の若手クリエイター、エリス・エリクソンと新しい映像を製作したと聞き、期待を胸に抱いたサーファーが多く来場した。

本作には、アンドリューとエリスが、5年ほどの時間をかけて、ジョージ・グリーノウに師事しながらサーフボードデザインにおける新しいアプローチを模索した様子が収められている。ジョージ・グリーノウとは、ロングボードからショートボードへサーフボードのデザインが移行していく時代に前衛的なデザインを手掛けた人物。その彼が1960年代に生み出したのがエッジボードであり、アンドリューとエリスは、同コンセプトを現代にフィットするデザインへリファインしようと考えた。そして、その過程を追った映像が本作なのである。

このエッジボードとは、スピーディでキレのあるライディングが楽しめる、ボトム面のレールに段差をつけたデザインに特徴がみられるサーフボード。このデザインをテーマに、本作は巨匠ジョージからテンプレートやオリジナルの手法を教わりながらエリスが最速でモダンなエッジボードを求めてシェイプしていく内容になっている。1枚1枚のエッジボードの特徴や解説、プロセスとテストライディングのシーンが絶妙なバランスで編集され、バックに流れるサウンドの選択にもアンドリューの光るセンスを感じることができる。

そもそも、なぜエッジボードなのか? かつてエリス・エリクソンはデイブ・ラストヴィッチとモルジブにサーフトリップへ行った際、サーフボードのデザインやイクイップメントについて語り合ったとことがあるという。旅から戻ったある日、エリスは「ジョージ・グリーノウがウインドサーフィン用のエッジボードをシェイプし始めたようだ」とデイブから聞かされたときには嬉しくて興奮を抑えきれなかったという。そもそもエリスはジョージの大ファンで、以前から彼のエッジボードについて知りたいと思っていたからだ。

しばらくしてデイブからの紹介でエリスはジョージの家を訪ねることに。ジョージのエッジボードに乗ったエリスは衝撃を受け、自分の手によるサーフボードにもこのデザインを取り入れたいと思ったそうだ。そして後日、エリスはジョージからエッジの働きについて説明を受けることになる。

「シェイピングやグラッシングなどのテクニック、使う道具やセットアップの仕方すべてが他のシェイパーと違うんだ。今までに見たこともない彼の独創性に驚きの連続だった。ボトムをカットするのにチェーンソーを使っている人はジョージが初めてだったよ」と、エリスは笑って振り返る。

すべてはジョージのデザインや理論にインスパイアされ作られたもので、エッジボードごとにそれぞれの特徴とこだわりが盛り込まれている。あるモデルはオリジナルがニーボードだったり、あるモデルはウインドサーフィンだったり。あらゆるタイプのボード作りに長けているジョージからは、自身の経験を通じて培ったすべてを伝授してくれたという。

そうしてエリスらが削ったエッジボードは15本あまり。フィンも20種ほどが試作された。実際のライディング画像も楽しめる見応え感たっぷりの話題の本作は、日本でのプレミアム上映ツアーは未定だそうだが、DVD付きブックはオンラインで購入できる。まずはティーザーを見て、本編が気になりだしたらサイトへアクセスしてみよう。

『オン・ジ・エッジ・オブ・ア・ドリーム(ON THE EDGE OF A DREAM)』
https://ontheedgeofadream.org

 

会場のシートは満席で立ち見が出るほど大勢のサーファーが集結。20〜60代まで幅の広い年齢のサーファーがスクリーンに釘付けとなった。

エリス・エリクソン(写真左)とアンドリュー・キッドマン(写真右)。

映像に加えて作られた『オン・ジ・エッジ・オブ・ア・ドリーム』のアートブックより。アンドリューがジョージによるエッジボードのテンプレートをコピーしているところ。

『オン・ジ・エッジ・オブ・ア・ドリーム』のアートブックより。

ジョージがデザインしたブレードフィンの1つ。イベント時にはバリー・マッギーのイラスト入りで300ドルで販売されていた。『オン・ジ・エッジ・オブ・ア・ドリーム』のサイトでも販売中。

今回の撮影用にシェイプしたエッジボードを展示。手前のボードは「ザ・ピンク(THE PINK)と名付けられていた。他のボードもすべて1960年代に生まれたデザインをルーツとし現代に蘇ったモダンクラシッなクエッジボードだ。

 

エリスが持っているのが『オン・ジ・エッジ・オブ・ア・ドリーム』のアートブック。表紙を含め本作のアートはバリー・マッギーが担当。バスタブに浸かったジョージ・グリーノウのシュールな姿がたまらない。エッジボードとは何なのか? 「その答えはこの DVDとブックに入っている」とエリスは言う。


ギャラリーの質問に熱心に答えるアンドリュー。エッジの説明にはつい力が入る。


会場の外でも歓談は延々と盛り上がり、イベントは予定より1時間オーバーで終了。


帰り際にサインをせがむギャラリーに快く対応していたアンドリュー。この後はサンフランシスコ方面へ。本作のプレミアツアーで、カリフォルニアの海沿いにある10ほどのサーフショップをめぐる旅を楽しんでいた。


取材・文・写真/高橋百々