”その日”はいつ来るのか?ケリー・スレーター引退のシナリオを考察してみる

KS11のインタビューが掲載されたサーフィンライフ2012年1月号より

ロバート・”ケリー・スレーター”、1972年フロリダ生まれ。”キング”、”神様”、最近では”GOAT( the Greatest Of All Time)”と呼ばれるサーフィンの枠に留まらない希代のアスリートだ。18歳でプロに転向して以来、コンペティションシーンはもちろん、ある意味世界のサーフシーンを牽引して来た、まさに王様。1990年、当時の史上最高賞金額といわれた「ボディグローブ・サーフバウト」で優勝、クイックシルバーとの大型契約(これも史上最高金額とされている)、計7回のパイプマスターズ、最年少20歳で獲得してから、史上最年長となる40歳でも達成した過去最多11回のワールドチャンピオンとその成し遂げた記録、偉業の数々は数え切れないほど。そんなケリーにここ数年付き回っているのが、いつ引退するのか?という話題だ。約1年前のハワイでは「フルタイムでツアーに参加するのは2019年が最後になるだろう」とほのめかしていたが、今現在、その去就の行方は定かではない。今年のCT(チャンピオンシップツアー)は残すところパイプの1戦のみで既にワールドチャンピオン獲得の可能性は無いケリーであるが、近いうちに必ず訪れるであろう”THE DAY”の可能性を考察してみる。

ケースその1 : 2019パイプ・マスターズでの引退

12月8日から開幕するパイプマスターズはケリーにとって今年一番のプレッシャーはかかる試合になるだろう。7度のパイプマスターの称号を持つケリーは、ワールドランキングは10位で最終戦に臨む。ことパイプではアーリーラウンドでの敗退はそれなりのコンディションであれば考えにくいので、年間ランキング10位以内でのフィニッシュは可能、そして2020東京オリンピックの代表権内定のブループリントが描かれていたはずだった…。しかし、ここに来て怪我で今年のCT5戦以降、長期戦線離脱をしていたジョン・ジョン・フローレンスがパイプでの復帰を表明。ジョンジョンのランキングは現在8位でケリーとの差は約2,000ポイント。ケリー同様にジョンジョンの早期敗退も考えにくいため、どちらか早く負けた方がオリンピック代表権の座を逃すという、今年のワールドチャンピオン決定という以外にもスリリングな試合となるだろう。ただし不利なのはケリーで、この2,000ポイントの差が地味に効いてくる。ケリーがたとえ優勝してもジョンジョンの成績如何という状況だ。夏前ぐらいからオリンピック出場への意欲を見せていただけに、もしこのオリンピックレースで敗れるようなら、ここで引退が表明される可能性がある。今年の最終戦、しかも幾度もの栄光を掴んでいたパイプライン。こう言っては何だが、タイミング的にも場所的にも申し分がない。

ケースその2 : 2020年ツアー中、メモリアルな場所での引退

ケース1でオリンピック代表内定を逃したとしても、2020年ツアーのクオリファイに関しては全く問題無い。50歳手前でることを考えると、これはこれで驚くべき事実だ。モチベーションにもよるが、もしツアーに参加するとしたら、フル参戦ではなくスポット参戦ということになるであろう。怪我以外での理由での欠場は基本的にできないのだが(過去、J-BAYやブラジルの試合を十分サーフィンできる状態であったにも関わらずスキップした前科アリ)、長年の功績を称え、スポット参戦がWSLより特別に許されるかも知れない。もしくは特例のワイルドカードだ。が、やはり引退の花道は有終の美で飾りたいもの。では、現在のケリーが優勝できる可能性がある場所はいうと、G-Land、チョープー、パイプ、この3カ所ではないだろうか。いずれも決まればパーフェクトバレルのスポットだ。且つてケリーと他数名しか出来なかったカーヴィングターンはもはや当たり前になったし、エアー勝負となれば、その高さや回転軸、回転のスピード、そしてメイク率がケリーと言えども、ガブリエル・メディーナやフィリッペ・トレド、イラロ・フェレイラのブラジル勢には敵わないのが現状。しかし、一旦バレル勝負となれば、やはりケリーはまだまだ世界随一のテクニックを誇る。G-Landで最初に開催されたCTツアーの優勝はケリーだったし、チョープーはパーフェクト20ptを出したこともある。そしてパイプは前出の通り。いずれもこれまでのキャリアで縁の深いメモリアルな場所であることに間違いは無いし、最後のステージとしてもふさわしいのではなかろうか。パイプは1年以上先なので、除外するとして、G-Land、チョープー、次点がJ-Bayあたりか。

宮崎ISAでもやはりダントツの人気だったケリー。チューブを発掘するスキルも健在だった

ケースその3 : 2020年東京オリンピック

ケース1をクリアした上で考えられるのが、2020前半のツアーに参戦しながらのオリンピックでの事実上の引退。それが金メダルであればこの上ない最高のフィナーレになる。オリンピックに関し、時にはモチベーションを見せたり、時には少し懐疑的な発言をしたりと一環しない姿勢ではあるが、本人の中では相当狙っているではないだろうか、ケリー・スレーターがケリー・スレーターたる所以はそういうところだ。オリンピック後にはチョープー、そして自身がこの世に送り出したウェイヴプールでの試合があるが、そこはあくまで、凱旋パレード的な参戦ということになるかも知れない。

上記の3ケースは筆者の勝手な考察ではあるが、こう考えると、やはり今でもある意味、サーフシーンの中心にケリーがいる事は間違いない。いずれにせよ引退までそう長くはないであろうが、絶頂期でのセミリタイア、復帰してからの5度のワールドチャンプ獲得などいつも僕らの予想の遥か上を行き驚かせてくれてきたケリーだけに、これからの動向には引き続き注目していきたい。もしかしたら更なるサプライズがあるかも知れない。最後に今から8年前、11回目のワールドチャンピオン獲得の際にサーフィンライフに掲載されたインタビューより一文を紹介する。

「僕の時代はもう終わったというのが通説だった時代があった。そういうことを言われると、余計に燃える性質なんだ」〜ケリー・スレーター

text : Yasuyoshi Ogawa(surfin’ life)